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2016年07月24日

書評「国のために死ねるか‐自衛隊「特殊部隊」創設者の思想と行動」

誰かブログ書けよヽ(`Д´)ノ


という訳で久々に更新。今回はタイトルの通り、書評を書きます。


文春新書「国のために死ねるか‐自衛隊「特殊部隊」創設者の思想と行動」です。書いた時点ではA◯azonでベストセラー1位で売り切れてるので結構話題の本みたいです。


書いてみたら思ったより長いのと読みづらいのと私の拙い考察が入ってるので(ここ大事)なんじゃそらとか思ってもパーッと読み飛ばして貰えると幸いです(露骨な予防線

 自衛隊特殊部隊を語る上で貴重な本が先日発売されたので紹介したい。海上自衛隊特殊部隊創設に携わった伊藤祐靖氏の著書である。ただ普通に紹介するのも芸がないので「特殊部隊」について合わせて持論を述べたいと思う。

 1999年3月23日。北朝鮮の工作母船による領海侵犯能登半島沖不審船事件が発生した。史上初の海上警備行動が発令され、海上自衛隊の護衛艦「みょうこう」に立入検査隊が編成された。日本人拉致を実行していた可能性のある工作船の突入を前にして隊員達は死地立っていた。船舶への突入訓練も実施されておらず、防弾チョッキすら無く装備も不足し防弾チョッキの代わりに週間少年マガジンを腹に巻く始末であった。相手は北朝鮮の特殊部隊員であり任務を完遂できる可能性はゼロである事は明白であった。しかし、工作船は北朝鮮領海に逃亡し突入は成されなかった。この事件をきっかけに海上自衛隊に特別警備隊準備室が設置され自衛隊初の特殊部隊「特別警備隊」の創設が決定した。この部隊の創設に携わったのが本の著者である伊藤祐靖氏である。

 伊藤祐靖氏の類まれなる経歴も興味深いが、何よりも特殊部隊の考え方がよく分かる点が本書の一番の価値だと思う。優秀な兵士である事は特殊部隊隊員の条件である事は疑いようがないが、優秀な兵士が必ずしも特殊部隊隊員になれるかと言うとそうではない。どんなに体力があって優秀な技量を持っていても普通の人間の範疇を超えてない兵士と特殊部隊隊員には大きな隔たりがある。
 
 能登半島沖不審船事件の際に航海長として部下を死地に送り出す際に伊藤氏は自分の死を受け入れるだけで精一杯で「彼らは向いてない」と感じたという。その「向いてない」彼らを送り出すのではなく、「まぁ、死ぬのはしょうがないとして、いかに任務を達成するかを考えよう」という特別な人生観を持った人間を選抜し訓練して特別な武器を持たせて送り出すべきだと考えたそうだ。特殊部隊がただの精鋭部隊とはスキルだけではなく根本的な心構えから隔絶している必要性があるのである。

 これは何も伊藤氏や日本だけの感覚ではないと思う。映画「ブラックホークダウン」を思い出して欲しい。墜落したヘリの乗員を救うためにデルタフォースの狙撃手2人が敵でひしめく地上に降下する。誰に強制された訳でもなく自分の意志で死地に向かう姿勢は伊藤氏の言う人生観と同質のものではないだろうか。また2004年にロシアで起きた「ベスラン学校占拠事件」ではFSB所属のアルファ・ヴィンペルが出動し10人の隊員が戦死した。実はこの隊員達の大半が人質を守るために戦死している。ある隊員は人質達に投げつけられた手榴弾に覆いかぶさり、ある隊員は銃撃から人質を守るために自ら盾となって銃撃を防いだ。このような事実から死を割り切って任務達成に当たる人生観というのは決して荒唐無稽な精神論ではない。特殊部隊の隊員の一番重要な精神と言えるのではないか。

 そのことを念頭に置くと、本書での米海軍のNavy SEALの隊員への酷評も頷ける。近年、訓練不足やPMCに優秀な隊員が引きぬかれるなどして質が低下しているなどと言われているSEALだが優秀な装備と一定水準を満たした人員を大量に用意できるシステムによって世界水準の特殊部隊である事は間違いない。しかし、隊員個人の素質は「一定水準を満たしている」事は確かでも全員が極地にあるかというと疑問符がつくのではないだろうか。これは技量面でもマインドセットでも言えると思う。
 例えばクリス・カイルの自伝である「アメリカンスナイパー」の原作にはランナウェイというあだ名のSEAL隊員が出てくる。一度ならず二度ならず交戦中にクリスを置いて逃げる「臆病風に吹かれた男」である。彼でさえもSEALの過酷な訓練を乗り越えた時点で「一定水準を満たしている」優秀な兵士である事は疑いようがないが、明らかに伊藤氏の言う「死をしょうがないと割り切れる人生観」の持ち主ではない。勿論、仲間を手榴弾から守るために上に覆いかぶさって戦死したマイケル・モンスーアのような隊員も存在するが、やはり「混在」しているのだ。大所帯のSEALでは任務に合わせて人選するだけの人材的余力もあるし、ビンラディン暗殺のように失敗が許されない任務を遂行するために更に選抜された特殊部隊も存在する。

 しかし、特別警備隊のように小規模(50名前後と推測されている)ではそういった事は難しい。部隊の性質上、契機となった能登半島沖不審船事件のように突発的に工作船に拉致された日本人を救出するような高度な政治性を持った事案に対処する必要がある。そのため一定水準の兵士では足りない。そこで伊藤氏のいう特別な人生観を持った特別に優秀な兵士が日本の特殊部隊には必要だと私は解釈している。もしかしたらこの考えを旧軍の精神論と似ていると思う人が居るかもしれないが、死ぬことが目的ではないし、そもそも目的達成のために死を割り切れる人を対象としている。それを出来ない人に強要する事は非合理だという考えに立っている。
 

 長々と述べたが、実は冒頭の話を膨らませただけで本書の一端でしかない。能登半島沖不審船事件の話を皮切りに伊藤氏の経歴や考え方について触れられている。陸軍中野学校出身の父親の話、陸自の最年少昇進記録を更新し続ける隊員の話やレンジャー訓練に対する評価、除隊後のフィリピンで海洋民族の女性と訓練する話など特殊部隊隊員の普通じゃない話に興味があるなら是非読んでみると良いと思う。また自衛隊や自衛隊特殊部隊に興味ある人だけではなく、国に関わらず特殊部隊について関心があるなら読んで損はないだろう。個人的にはミリオタにオススメの一冊なのでぜひ手にとってみて欲しい。

 
 
 
オマケ
合わせて読むと理解が深まる本(及び個人的にオススメの特殊部隊関係本)
「奪還」麻生幾…伊藤祐靖氏をモデルとした小説。当然フィクションもあるが巧妙に概ね事実の内容が書かれている(らしい)。関係者に取材をして正確な情報を反映しており麻生幾との対談で伊藤祐靖氏を驚かせている。

「瀕死のライオン」麻生幾…選抜試験など特殊作戦群について概ね事実の内容が書かれている(らしい)これもまた確認しようがないがデタラメではない事は確かである。

「戦う者たちへ‐日本の大義と武士道」荒谷卓…陸自の特殊部隊である「特殊作戦群」の創設に携わった荒谷卓氏の著書。主に独特な世界観の「武士道」に基づいた心構えについて書かれている。Twitterでの反応を読む限り私だけではなく現職自衛官を含めて大半の人が理解に苦しむ内容だと思われる。ぶっちゃけるととっつきににくいが特殊作戦群とその隊員の考え方だと思うと興味深い。

「アメリカンスナイパー」クリス・カイル…同名映画の原作。読めばクリス・カイルとSEALについての理解が深まるはず。比較してみると日本の特殊部隊とは違う風土というものが分かる。

「世界の特殊部隊作戦史1970‐2011」ナイジェル・カウソーン…主に米軍の特殊作戦について詳しく載っている。具体的に特殊部隊が何を成したのかよく分かる。本学の図書館にも置いてあるのでオススメ。


 






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